自死遺族支援のためのシンポジウム ―支援のための提言―

(つづき A) 第2部■自死で家族を亡くした経験から伝えたいこと (NPO)全国自死遺族総合支援センター 事務局長 南部 節子

言葉の使い方について

こういうふうに私は社会的に皆様の前では自殺という言葉を使い、自分のことを言う時は自死というふうに使っています。両方使っています。ただ、今島根県と鳥取県で条例ができまして、“自死”に全部変えることになってしまったんですね。
チョッとこれは全部変えるって、どうかなと。全国にこれが広まったらどうなんだろう、全部変えるのはどうかなということで、私達はガイドラインを出すことにしました。

皆さんね、ガイドラインというと“提案”ということですよね。こうしたらいかがでしょうかということなんですが、ある人は「いや、自死だけでいいと思っているのに。自殺も使わないといかんのか」「いえいえ、こういうふうにしたらどうですか」と言うだけで、それも「あなた様のいいような使い方でいいんですよ」って言うんですけれど、なかなか難 しいですよね。

皆さんの中にご遺族がいらっしゃるか分かりませんが、私自身は夫を亡くすまでは弱い人が自殺をする、このように思っていました。「死にたい」と口にする人は自殺はしないと。
だから遺族の方も「死にたい、死にたい」とずっと言ってた。でも、「死にたい」と言っていたから、死なないと思っていました。「まさか死ぬとは思っていませんでした」と言われます。実は死にたい人は死なせてやればいい、そう思ってたんです。でも死にたい、生きたい、揺れ動いているんですよね。生きていられるものなら生きたい。でも、苦しくって、苦しくって、今この状態から抜け出すには死ぬしかない。要するに、“死にたい”は“楽になりたい”ということなんですよね。私は夫を亡くしてそのことが分かりました。楽になりたい方法が死ぬことなんです。覚悟のうえの死、ひょっとしたら三島由紀夫さんがそうかな。は遺族の方の話をいっぱい聞きましたがそんな中で覚悟の死と思ったのはありま せんでした。

自死、自殺未遂をする人でリストカットをずっとしている人に聞いたら、「切ると気持ちがすっ〜とするんです」って。「それこそ切ると楽になるから切る」と仰っていました。
若い子からある相談を受けました。チョッとくらいならお話してもいいかなと思うんですが、1時間お話しました。「今切りました。何回も切っています」「すいません、すぐ、救急車呼んで」と言いました。「いいえ、自分で何とかできるし、そんなにいっぱい出ていません」「抑えてくれる」「ハイ、大丈夫です」「刃物チョッと横置いて、便所のどっか遠いところに置いて下さい」「置きました」それから最初は「ハーッ、ハーッ」って、こういう感じでしたけど、1時間しゃべりました。そうすると最初とは全然違う声になって「もうあなたとっても可愛い子に私思えるけど」「いいえ不細工です」とか言っちゃって。

でも、しゃべる人もいない。部屋の中にひとり。「お母さんどうしたの」と言ったら、「統合失調症になったんで、お母さんもひとり」と言う。「追い出されてしまった」「生活保護を受けながら、お医者さんや作業所に行きながらひとりで暮らしています」と仰っていました。「雨戸も開けない」と仰っていたんで「天気のいい日は少しでも雨戸を開けて光を浴びてみたら。少しは元気が出るかもしれないよ」と言ったら、「じゃあ、これからそうしてみます」「似顔絵描いて壁に貼ってね、あなたとあなたでお話ししてみたらどう」って言ったら、「不細工だから嫌だ」って言っていましたけど、幸い「やってみます」と言ってくれて・・・最後すごく明るい声で「作業所は嫌だと思っていたんだけど、今日行ってきます」と言ってくれました。

だからやっぱり、皆寂しいんですよね。孤独だということが良く分かりました。孤独、孤立、それを何とかできないかなと思いました。私達もどこかへ繋げれば繋ぎますけれども、その方も週に何回かヘルパーさんが来てくれて、「お医者さんにも行く、作業所にも行く」って言ってましたので、それだったらいいかなって、「またしばらく経ったらお電話下さい」と言うことにしました。

先程鈴木先生も仰っていましたよね。私も自殺者のというより自死遺族とか言ってほしいなという気はしていますが、でも法律を変えるって大変なことで無理かもしれません。
こういうふうに自死遺族について考えて書かれている法律っていうのは多分自殺対策基本法だけだと思います。

毎回こういう会場で身近に自死者がいるかどうかを聞くんですけど・・・。「目をつむって下さい。家族、恋人、親戚、友人で、自殺で亡くしている人は手を挙げてください」。ありがとうございます。今日は何人いらっしゃるのか。その中で7人いらっしゃいました。いつもこういう会場で3分の1はおられます。と言うことはこの統計では3人に1人と言うことなんですね。そうすると自殺する人が3万人、残された人が5〜6倍いる訳ですよね。

ですから、今自死遺族が300万人以上いると言われています。
先ず自死遺族の話を聞いて、死者から学ぶというか、伝わってくるんじゃないかと思っているんですね。私みたいにもっともっと遺族の方が自らの体験としてお話してほしいと思っています。でもほとんどの方が隠している。「言えないよね」と仰るんです。分かち合いの中でしか言えません。何故でしょう。何故か、教えてほしい。言わないのか、周りが言 わせないのか。これ全部ありますよね。「言えないよね〜」と仰る方、「何で言わなくちゃいけないんですか」と言われる方もあります。でも、ほとんどの一般の方に聞くと「自殺しました」と言われたら、何と言っていいか分からないから「逃げます」と仰るんです。

私も当初は近所に内緒、「心筋梗塞で」と嘘をつきました。葬式は夫の会社の人と親戚だけでやりました。 でもうちはたまたま、どういう訳か、娘に「何で嘘つかなならんだ」と怒られました。「嘘をついたら嘘の上塗りで、もっと苦しくなるやない。私は友達に本当のことを言うよ」と娘に言われ、息子からも「お母さん何で嘘つくねん。親父はなんか悪いことしたんか」と怒られました。今でもその時の光景は覚えています。

考えたら、お父さん一生懸命仕事をして、悪いことをしていないのに死んじゃったんだなと。嘘をついたらお父さんの生きた証を消すことになるということに気が付いたんですね。
58年間一生懸命生きた、そのことを他の人にもちゃんと知ってほしいと思うようになりました。

じゃあ、私自身どうしたらいいのか。こんな思いはひとりで抱えていられないと思っていたところタイミングよく、清水さんから厚労省の尾辻さんの前で話す機会をいただいたということになりました。

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