自死遺族支援のためのシンポジウム ―支援のための提言―

(前頁つづき B) 第1部■自死遺族に寄り添う“グリーフ&モーニング” 講師:東京福祉大学・大学院 教授 鈴木 康明

時間軸・これから

それから時間軸のお話です。過去ではない、私達これからです。これから先を見据えた関わりということでしょうね。最後に、視点としてはですね、短所を埋める。それもいいでしょう。もうひとつ、長所を伸ばす。ですから、なんかですね、メンタルヘルスそのものに対する見方も今検討が必要なのではないかとそんなふうに思っております。

さて、本題です。ここはですね、的を絞りこんで皆様と共有したいと思います。
でも、おそらく多くの方は「今さらなんだ」と。でも、言わせていただきたい。
遺族とはどなたでしょうか。

誰を思われますか、ご遺族とは。私、この2つを考えたいんです。
ひとつ目、あえてそのまま出しました。
“survive (サーバイブ)” “survivor (サバイバー)”。

直訳しましょう。「災害や事故などをくぐり抜けました。助かりました。そして生き延びました」。そうするとですね、皆さん「あなただけでも助かってよかったわね」と言われれば、言われるほど苦しい。ネガティブサバイバーはどうしましょう。だから単純な言葉じゃないですよ。翻訳すると、「生き延びた人、良かったですね、でしょうか。こんな苦しい思いをするのであれば、一緒に死んでしまいたい」。ただ単純なサバイバーではないということをお伝えしたい。これは自死のご遺族にも関わってくると私は思いますよ。

2点目でございます。これは直訳せずにそのまま出しました。
“bereaved family (ビリーブド ファミリー)”ですね。
まあ、言葉の意味合いとしては「奪われた家族」になります。

じゃあ、どういうことでしょうか。当然のことながら、奪われた、それは人であると。ただですね、私達は関係存在ということを見失ってはいけない。常に人との関わりの中でしか生きていけない。その方が亡くなってしまった時に、ただ単純に人が奪われたものではないでしょうということを申し上げたい訳ですよ。てことは、生きる喜びです。それから希望、人生、人間関係等への期待も奪われるだろう。

とどのつまりは、私達の持っているだろう知性も奪われます。ですから、死別というものがいかにすさましい力を持っているかをそこを見た時に、ただ単純に、サバイバーでしょ、ビリーブ ド ファミリーでしょ、とは言えないと私は思っております。

■これまでの遺族へのかかわり

@地縁や血縁身近な人間関係が支える
  ↓
  ★人間関係、人間観の変化

A宗教 信仰心が支える
  ↓   ★価値観の多様化

このようなご遺族に対しての関わりでございます。よ〜く、ここではですね慎重にお付き合い下さい。
決して私ですね、@を否定しておりません。大切です。どちらかといえば、私達のこれまでの関わりを地縁、血縁がベースであった、ここはとても大事だと思いますので、今まで以上にですね、ここは強化していくことが必要であろうと思っている訳だけれども、価値観は相当動いている。

かつて、私が関わっていた死別ケア、こんなことがありました。かつてです。 もう20 年くらい前でしょうか、わざわざですね地方からいらっしゃる方にこういうことを申し上げたことがあります。
「何々さん、あなたの住んでいらっしゃるところにもこういう会ありますよ」。
彼女はこう言いましたね。「いや、先生困りますよ」と。「私のことをもしかして知っている人間がいるような場所で怖くて言えません。東京なら誰れも私のこと知らないと思うから、気が楽なんです」。
地縁、血縁の関わりはとても大事です。けれども、そこにおさまらない方達もいるんじゃないかな。気付かさせられました。そういうふうに捉えてください。全て物事を私否定的に申し上げていないし、ありがたいなと思っているんだけれども、現象は動いているんです。それが2点目。

宗教、信仰心も同じ

宗教、信仰心も同じだと思うんです。今まで以上に、ここは私達きちんと考えなければいけないと思いますよ。何故ならば、NHKがついに報道しましたね。東日本大震災と幽霊です。結論としてはですね、幽霊がいる、いないではないと。それはどうでもいいことであって、被災した方が見ているというその事実が大事なのであろう。じゃあ、この方達はですね、どこに、どのようにご自分の想いを伝えていくのか。

チョッと下の方を出してみたんですね。思想、哲学で救われるだろうか。精神医学で救われるだろうか。じゃあ、私のような心理学で救われるんだろうか。考えました。いろいろなことが考えられると思います。例えば、精神科へ行った時に「見えないものが見えるんですよ」と。
「聞こえない声が聞こえるんですよ。ほら、そこに人がいる」。その時の精神科の反応、「見えないものが見えるんですね」「聞こえない声が聞こえるんですね」「あるものを出しますよね」でも、統合失調症ですべてが語れるかどうか。じゃあ、私のところに来たとしましょう。ああ、そうですか。辛い思いをされましたので、PTSDという考えがありましてね、それでその方、どうなるんでしょうか。

(Posttraumatic stress disorder 心的外傷後ストレス障害)
もう一つの選択肢としての宗教がないでしょうか、ということなんですよ。このこと、心理職はできませんよ。逆立ちしてもできませんよ。そして死者を弔うことも。
「先生、死んだ人どこ行ったんでしょうか」と言われても分らない、それが正直なところですよ。ましてや供養なんてとてもできませんよ。じゃあ、このスペシャリストは誰なんだ。
今ですね、東北大学がついに臨床宗教師の育成に入ってきましたね。果たして、それがどんなものなのかなということがありますけれども。

ですから、こういうことです。あのシステムですね。個人的な努力も勿論大事ですし、地縁、血縁なども大事なんだけれども、冒頭申し上げた第1条、第2条、社会が頑張ろう、社会がやれと、社会システムの拡充でしょう、今問われているのは。繰り返して申します。@番大切です。A番も大切です。じゃあ、三つ目、頑張りましょう。現実、このB番、非常に弱い者じゃあありませんか。

1 枚めくっていただきましょう。小さくって申し訳ございません。左上になります。

■これからのかかわり

@+A+B{カウンセリング活動、
自助グループなど

・遺族が選べること 遺族の主体性の尊重
・かかわる側の連携
・チームアプローチ
・情報 yasuzuki@ed.tokyo-fukushi.ac.jp

今問われていることは、こういうことだと思います。 @があります。Aもあります。Bもありますよ。いかがですか。 キーワードは苦しんでいる方が選べること、そのためにはたくさんの関わりが問われる、必要になってきます。もう一度申し上げます。

@番大切です。A番もっと大切でしょう。でもB番もあってしかるべきではありませんか。
このB番がいかにも心もとない国であます。

もう一度申し上げます。ご遺族が選べること。
ご遺族に選んでいただきたい。そのためには何が必要なんでしょうか。1 対1 の対応も勿論いたしますけれども、先ずグループを考えてみますね。何故かというと、やはり横並びの関係が人を支えているということがある程度見えてきている。ただですね、交通整理が必要なんですよ。皆さんね、悪意の持ち主なんていないと。
皆苦しいから、皆良くなる、良くなるというか、何とかなりたいなと思って、でもですね、よく発言がですね、混乱しますね。ですから、先ずそこを整理しないと。紛れ込んでくる方がいるんですね。明らかに目的が違う。

チョッと厄介なことが起きたりするので、やはり入り口での交通整理、非常に大事になりますね。共通の問題もしくは対等、上下なしです。教えてあげるよとかですね、私が指導するのはありえない。皆対等です。

細かくは当事者グループとサポートグループ。サポートグループは専門家が関与していいです。それがもともと目的ですし、プログラムも持っている。

さて、とかくですね、悪気はないんだけれども気が付くと批判をしてしまう。気が付くと評価をしてしまう。おそらく、1 対1 の対人援助でも起きることかもしれないですね。それはあってはならないと。例えば、「だからあなたはだめなのよ」と言われた時に、じゃあ、どうしたらいいですか。

ここってそういうことを言われる場ではないはずですということなんですよね。繰り返して申しますよ。発言している側に悪意はないんです。苦しんでいる方を何とかと思って、出てきた言葉が「それですか」ということなんですよ。言われた側の身になっていただきたい。あと、もうひとつ典型的なこと、こういうことですよ。
「何々さん、大丈夫よ。私もね、あんたと一緒だった。でもここまで元気になれたから、きっとあなたも大丈夫よ」。分かりますよ、言いたいことは。でも、言われた側の気持ちになっていただきたい。ああ、教え込まれてしまった。あなたはそうかもしれない。でもあなたと私は別人格でしょ。ここらをきちんと整理しておくことが必要なんですね。ファシ リテーターというのはそういう意味ではある程度は専門的なトレーニング必要かなと思います。

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