大切な「いのち」

自分の人生の主人公は自分

    特定非営利活動法人  
     自殺防止ネットワーク 風  
    理事長   篠原 鋭一


自分の代わりは、自分のほかに誰もいません。

お腹がすいたら、自分で食べるしかありません。代わりに誰かに食べてもらっても、自分のお腹は少しも満腹になりません。
眠たくなったら、自分で寝るしかありません。代わりに誰かに寝てもらっても、眠気は少しもおさまりません。
あなたの人生を代わりに生きてくれる人は、あなたのほかにも誰もいません。
だから自分がどう生きるかは、自分次第です。人生は、いろいろな人に助けられたり、助けたりしながら生きていくものだけれども、生き方の選択は、自分でするしかありません。
自分で生き方を選択すれば、自分らしい生き方ができます。
自分の人生の主人公は、自分です。
自分の光を放とう 自分の花を咲かそう 人と自分はちがう くらべることはない!


人と自分はちがいます。


足が速い人もいれば、絵がうまい人もいます。
リーダーシップを発揮して集団を引っ張っていくのが得意なタイプの人もいれば、縁の下の力持ちタイプの人もいます。
世の中は、リーダーも必要だけど、リーダーを補佐する人も必要です。
病気になったらお医者さまが必要だし、勉強するときには学校の先生が必要だし、おいしい料理が食べたいときにはコックさんが必要です。
仕事に疲れてしまったときに、やさしい笑顔で迎え入れてくれる人も必要です。
いろいろな人がいるからこそ、世の中は成り立っているのです。


けれども人はそれぞれちがうはずなのに、人はすぐ自分と他人をくらべたがります。
「ぼくはあいつよりも勉強ができる」 「私はあの人よりもモテない」
こんなふうにくらべて、優越感にひたったり、自分をダメな人間だと思い込んで落ちこんだりします。
でも、そんなのはつまらないことです。
だって光を放つ場所や、咲かせる花の色は、人それぞれちがうのですから。
ある一つの定規で、人間の出来不出来を測ることはできないのです。
測れないものを、むりやり測ってわかったつもりになるのは、おろかなことです。
だからもう、人と自分をくらべるのはやめましょう。
自分の周りの人たちを見ていて、「すごいな」と思える部分があったら、素直に「すごいな」と思えばいいのです。
そして自分は自分の光を放つことに、自分の花を咲かせることに心を傾けてください。
そうすれば、いつか自分の花が咲いて、人とくらべなくても自分に自信を持てるときが、必ずやってきます。
また、他人の「いのち」を大切にするように、自分の「いのち」を大切にすることも忘れてはいけません。
自分のいのちは、自分だけのいのちではありません。数十億分の一、数百億分の一の確率で生まれたいのちであり、長い、長い、いのちのリレーによって受け継がれてきた「いのち」です。
それに、あなたがいのちを粗末にすれば、悲しむ人間があなたの周りにきっといるはずです。
自分のいのちも、人のいのちも大切にできる。
どうか、「いのち」にやさしい人間になってください。

 

 

 

心といのちを考える会について


  特定非営利活動法人  
  自殺防止ネットワーク 風  

  副理事長  
  心といのちを考える会 会長  
                      袴田 俊英
  


  自殺で命を亡くされる方は、全国で年間約3万人。私の佳む秋田県は、平成7年以来12年間、自殺率全国ワーストを続けています。その数年間約500人。交通事故の死者は全国年間約6,300人ですからそのおよそ5倍の方が自ら命を絶っているということです。

  秋田県の北部、世界遺産に登録された白神山地を境に青森県と接している小さな山村、藤里町に、自殺予防を目指す「心といのちを考える会」が生まれたのは平成12年のこと。人口4,000人あまりのこの町で、平均すると毎年3人から4人が自殺で亡くなっていました。
この町では自殺は「語れない死」であり「タブー」でした。遺族に対する配慮がそうさせたのだと思います,しかし、このままでは自殺は少なくならないと、住民有志が立ち上がりました。

  きっかけは秋田県が主催したシンポジウムに参加したことでした。21名が町のバスを借り、聞いてきた話は次のようなことでした。

  自殺には「うつ病」または「うつ状態」が大きく関係している。その「うつ」には薬がある。それは精神科医が処方する。その精神科に受診することがはばかられる状況がある。
この状況は住民の私たちの心が作り出している。この時まで私の中にも自殺は個人の問題ではないかという思いがありました。このとき自殺を町のみんなで考えていこう、と覚悟が決まりました。参加した皆もまた、同じ気持ちになったようでした。帰りのバスの中で、会の発足について話し合いました。これが平成12年7月。3回の準備会を経て10月1日に「心といのちを考える会」が発足しました。

  会では平成15年からコーヒーサロンを開いています。毎週火曜日の午後1時半から4時まで、町の施設の一部をお借りしています。ここは気軽に立ち寄って世間話をしていく「縁側」です。かつて農家には広い縁側があり、豆などを干したりする作業場であり、出入り口だったり、野良着のままお茶を飲んで話をする茶の間にもなっていました。たとえそれが嫁姑の悪口でも、少し鬱々とした気分は話をすることで解消できていたのではないか。そんな「縁側」を町の中に作ろう。これがコーヒーサロンの発想でした。

  今、この発想が自殺予防にとって、とても大事なことだと思っています。悩みや苦しみは、いつの時代も無くなるということはないことは自明です。しかし、かつては人のつながりがセーフティーネットになっていました。人がバラバラに生きていくようになったら、人のつながりは不快なものとされてしまったのではないでしょうか。つながりがなくなると、悩みや苦しみはもう口にできないことになってしまいます。悩んでいる人苦しい人は「私」の周りにいてほしくないのです。不快だから。だから「私」が苦しいとき悩んだときに「助けて」と声を上げることができなくなるのです。自殺の原因はさまざまであるといわれます。しかし、その根っこにあるのは、1人で悩むということにあると思います。

  つながりの再生が、自殺予防の大事な考え方であると信じ活動を続けています。

 

 

  自殺を思い止めさせた「世界の人形時計」

 

    特定非営利活動法人  
     自殺防止ネットワーク 風  
    副理事長   竹下 八郎

   もう20年以上も前の事です。横浜駅の東口に巨大百貨店が誕生しました。オープンと同時に、正面入口にカラクリ時計がお目見えしました。ご存知の方も多いことと思いますが、「世界の人形時計」です。この人形時計、ディズニーランドのアトラクション「IT'S world」をイメージして製作されました。正時になると時計の中から世界の民族衣装をまとった人形達が飛び出してきて、「小さな世界(子供の世界)」の音楽に合わせ、楽器を奏で、歌い、踊るカラクリ時計。正時毎に集まる人々。時計をじっと見入る人の輪。辺りは、えも言われぬ安らぎの時が流れ、和やかな空気が広がる・・・。百貨店の開店と同時に評判となり、特に子供達には大変な人気を博しまし開店後間もない、とある日。私の手元に一通の手紙が届きました。手紙は若い女性からのようで、概ね次のような内容でした。

   「私は人生に悩み、生きていることが苦しく、開店したばかりの百貨店の屋上から飛び降り自殺を図ろうと決心し、横浜に行きました。通り掛りにふと目に入った人の輪。大きな時計の下の広場でした。『皆んな何をしているんだろう』と様子を見ながら、時計の下の人ごみの中でしばし待っていると、鐘の音と共に時計の中から人形達が出てきて、ディズニーの「小さな世界」の音楽とともに、楽器を奏で、歌い、踊り始めました。時計の下の最前列では、歌を口ずさみ、人形に合わせ踊る子供達。私も含め集まった人達はしばし時を忘れ、一心に時計を見つめ、音楽に耳を傾け、人形達のパーフォーマンスを楽しみました。

私は思わず、吾を忘れて立ちすくんでいました。人形達が鐘の音と共に時計の中に消えていく間、何故か涙が止め処も無く流れました。ここ数年苦しんでいた私の心が洗われ、安らかな想いが込み上げてきました。この時、私の心の中に、生きてみようという気持ち、また頑張ってみようという元気と勇気が沸いてきました。今はもう自殺など考えず、夢を持って生きていこうと思っています。心から、世界の人形時計との出会いに感謝しています。本当にありがとうございました。」(手紙は手元には無く、記憶に添い私が書いた文です)本当に大切な命。今は、幸せなご家庭を築かれているのではないでしょうか。この話は、有名なエッセイストの方も、とある新聞のコラムで取り上げた実話で、むしろ当時多忙を極めていた私自身が元気付けられた手紙でした。

   20年余活躍したこの人形時計。残念ながら、今はもうなくなってしまいましたが、延べにして10億人近い方々に元気と勇気と夢を与え続けたと言っても過言ではありません。

   思い詰めた方が自殺を思い留まるのには、硬い殻を破ってくれる新たな「出会い」とか、「きっかけ」が無いとなかなか難しい。ご紹介した話は、「世界の人形時計」との偶然の出会いということになりますが、消えようとしていた「いのち」が再生したということです。

   もっとも、自殺志願の方には人に話せないいろいろな悩みがおありでしょう。でも、先ずは一人で悩まず、新しい「出会い」とか「きっかけ」が何処にあるのか、辺りを見回してほしいと思います。
私達に一本お電話いただくことで、新たな「出会い」、「きっかけ」となれば…と願っております。